東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1565号 判決
暴力金融業者として新聞に報道されたことのある訴外和田善明は、被控訴人の記名印などを盗用して、被控訴人を連帯保証人とする手形取引約定書≪証拠≫および被控訴人を裏書人とする額面二三〇万円の約束手形の、それぞれ被控訴人作成名義部分を偽造し、右手形を同業者の訴外望月勲に交付していたが、同手形が不渡りになったため、訴外望月は、手形裏書名義人である被控訴人から手形金の支払を受けようと企て、昭和五四年七月二日の夕方頃、訴外高松、同小柳ほか一名の屈強の男(これらの男はいずれも柄シャツを着用し、言葉使い、立居振舞などからして暴力団風の人物とみられた。)とともに被控訴人方に赴き、手形金の支払を強く、しかも長時間にわたって執拗に要求し、途中で訴外和田も加って、右手形取引約定書などは偽造であり、支払責任はない、と主張する被控訴人に対し、翌日未明頃までにかけて、こもごも「約定書があればどうにでもなる。今夜中に二〇〇万円を支払え。支払わなければ家でも工場でも取上げる。」などと大声で述べ、これに応じなければいかにも何らかの危害を加えるような態度を示したので、被控訴人は、やむなく右同日早期原判決添付別紙手形目録記載の本件約束手形≪証拠≫を振出し、訴外望月に交付したものの、同日朝には静岡市内の大橋弁護士のもとに相談に赴き、同弁護士が被控訴人の代理人として翌四日には、右望月らを右手形喝取の恐喝容疑で静岡中央警察署に告訴した、
ことが認められ、前記証人望月勲、同高松邦彦の証言中、右認定に反する部分は前掲証拠に照らすと採用できず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。
そして、右認定事実よりすれば、被控訴人の本件約束手形振出は、手形受取人(名宛人)である訴外望月らの強迫によってなされたものとみるのが相当である。
三 次に抗弁2の事実について検討する。
≪証拠≫によると、
訴外望月と控訴人は一〇余年前からの友達(控訴人の方が兄貴分)であり、昭和五四年当時は両名とも金融業を営み、相互に手形の割引をし合う仲であり、訴外高松も両名の知人であったこと、
昭和五四年八月二日に静岡地方裁判所に提出されたことが当裁判所に顕著である本件訴状は、控訴人の依頼によって訴外高松が作成したものであり、その第一回口頭弁論期日にも、訴外高松が原告として裁判所に出頭して原告席に着席のうえ、弁論をなし、控訴人は傍聴席でこれを傍聴していたこと、
右訴状の写には訴外望月の電話番号(八六局の二九七四番)が控訴人の連絡先として記載されていたこと
が認められ、これら事実および前に認定の事実を総合勘案すると、訴外望月と控訴人はもともと極めて親しい仲であり、本件約束手形の裏書譲渡に際しても、訴外望月は右手形取得の経緯、事情を控訴人に話し、控訴人は、右手形が訴外望月らの前記強迫により振出されたことを知りつつ、これを取得したものであると推認され、当審における控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用できず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。
四 被控訴人が当審第七回口頭弁論期日において、強迫を理由に本件約束手形の振出行為を取消す旨の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著である。
五 そうすると、被控訴人の取消の抗弁は理由があり、控訴人の本訴約束手形金請求は失当ということになるから、これを認容した本件手形判決を取消した原判決は正当であり、本件控訴は理由がない。
(岡垣 手代木 上杉)